子育て総力戦研究所

父親から見た23区近郊車なし子育て

地下信仰のような治療法で赤ちゃんの呼吸が改善した話

この記事の要旨

 一部で「舌癒着症」と呼ばれている症状の改善のため、生後1か月半の赤ちゃんがちょっとした手術を受けた件の顛末をまとめています。

そもそも「舌癒着症」とは

 「先天性舌癒着・喉頭蓋・喉頭偏位症」のことだそうですが、「舌小帯短縮症」のことを舌癒着症とする用例も見受けられます。この記事では前者について取り扱います。医師の説明によれば、「舌の根本がくっつく(癒着)することにより、口・鼻からの気道が前方に引っ張られ、気管とずれて呼吸の通りが悪くなった状態」(意訳)とのこと。対処としては、舌の付け根の下部(舌小帯がある部分+その奥)に切れ込みを入れて癒着を解くことで、緊張から解放し、呼吸の通りを良くする手術を行うそうです。
 赤ちゃん以外にも施術をしていますが、大人だと局所麻酔/幼児児童だと必要に応じ全身麻酔が必要なのに対し、乳児期であれば湿潤麻酔(歯を抜くときなどに使っているやり方)で5~10分程度の施術で終わるとのことでした。

 歴史を調べていくと、それまで助産院界隈で行われていた「出生直後に舌小帯を切る」対応が徐々に廃れていくのに対するアンチテーゼとして、神奈川県大和市にあった「向井診療所」の向井医師が提唱・伝道していたようですが、国際学会で突然ゲリラ発表を行う(?)等過激な行動が目立ったため、それまでも舌小帯への外科適応に否定的な意見を出し続けていた小児科学会から、2001年に舌小帯短縮症の手術を含めて外科的改善の必要性を否定される提言が出され、それ以降、全国でも両手で数えられる数の診療所のみで自由診療として行われ続けているようです。(ちなみに当該向井医師及び、これに対する否定をまとめた仁志田医師の両名とも2022~2023年にかけて亡くなっています。)

 なお、「舌小帯短縮症」に対する施術については、近年見直されており、歯科学会では前向きな評価に転じつつあるようで、新百合ヶ丘総合病院では舌小帯外来が設置され、舌癒着症に対する施術とほぼ同じ施術を行っているようです。(ただし、舌癒着症が舌及び咽喉の改善を目的としていることに対し、舌小帯短縮症は舌だけに焦点を当てているように伺えます。)

施術を受けるきっかけ

 もともと、妻が持病で喘息を持っており、成人してから向井診療所で舌癒着症の手術を受け、呼吸が急激に改善したことから、舌癒着症に対する一定の信頼はありました。
 また、子の呼吸が明らかに浅いこと・母乳の吸いが悪いこと・身体が常に張っていることなど、呼吸に関する脆弱性が目に見えてあったことから、施術の必要性を含めて見てもらうため、向井診療所なき後、関東で唯一施術をやっている山西クリニック(新宿区早稲田、耳鼻咽喉科)を受診することにしました。なお、舌癒着症の施術をする際、大抵は上唇小帯も切って鼻呼吸の改善もすることになるようです。

 ただしこのようなルートで受診に至るケースは極めて稀で、多くの場合、母乳の吸いが悪い等で助産院に相談した際にクリニックを紹介されるようです。

通院の記録

 1か月健診の直後に初めて受診し、鼻からカメラを通して喉頭を見たり、母乳授乳時の酸素濃度をパルスオキシメーターで測定したりしたところ、症状は最も重度であり、なるべく早くの施術を勧められたものの、乳幼児に対する施術は2週間に1回、火曜日の午後しかやっていないこと、間に医院の夏休みを挟むことから3週間後の施術となりました。また、施術までの間に、提携する助産院で1度見てもらうように指示があったため、中野区の助成が効く助産院でデイケアを受けました。

 手術当日は15時から開始で、月齢の幼い順に4人の子が施術を受けていました。(その中でもうちの子が一番若く、他は月齢2カ月・6か月・9カ月といった感じでした。)

 施術自体は10分程度で終わり、その後、授乳時の酸素測定等を経て、解熱剤(座薬)と抗生物質(粉薬)の処方箋をもらって16時頃に解放されました。

 なお、施術後にも同様に助産院で見てもらう必要があるらしく、その日に助産院に出向き、1時間程度見てもらいました

 その後、施術後の予後観察として、施術翌日・1週間後・2週間後・1か月後に通院する必要があったため、初診も含めて早稲田に6回通うことになりました。

 施術翌日の診療では、切開痕の再癒着を防止するためのリハビリを毎日3回行うように指示がありました。リハビリといっても歯ブラシで舌を上に押し上げたり、上唇を上に押し上げる簡単なものです。リハビリは1週間後の診療で健全にかさぶたが確認できるまで続きましたが、結構痛いのか子はリハビリの都度泣いたので心苦しいところがありました。

 そして、1か月後の診療において、特段の所見がなかったため、無事治療終了となりました。(第2子が産まれたらまた見せに来てくださいと言われたのには笑いましたが)

 保険不適用のため診療費は合計11万円程度、3回に分けて現金ニコニコ払いでした。

症状はどう改善したか

 施術前後で改善したのは以下のような項目です。

  ・呼吸が目に見えて深くなった
  ・身体の張りがとても減った
  (→息苦しいと身体に力を入れてしまうため身体が反り返ってしまうようです)
  ・母乳の吸いが改善し、最終的に完全母乳化した
  (→これは施術だけではなく母乳外来等に通院したことも寄与しています)
  ・授乳後にむせる・吐き戻すことが減った
  ・下唇が乾燥して剥がれることがなくなった
  (→口呼吸が減ったからと思われます)
  ・泣いているときの顔色が若干良くなった

 正直、施術の効用には半信半疑だったのですが、呼吸の通りがよくなることによる良い影響が出ていると感じました。また、自分自身、呼吸器が弱いことによる不利益(運動が嫌いになる等)を経験していたので、哺乳が改善するのは1年程度しかメリットがないですが、呼吸器系が改善するのは生涯に渡ってメリットになると思っており、施術が大げさにならないうちにやってよかったと思っています。

 ただ、ネットで検索すると批判的な個人ブログ(おそらく成人で施術を受け、不利益を被った者)が見つかり、そういったこともあってか施術の前に同意書をがっつり書かされたりするため、予備知識がない状態だと、かなり胡散臭い・怪しく感じてしまう部分もあると思います。そのため、母乳の吸いが悪いだけでなく、自身も呼吸器系の疾患に悩まされた経験があり、かつ現に子の呼吸状態に不安の強い親じゃないと決心できないのではないでしょうか。

 なお、山西クリニックで山西先生が診察されるのは水曜、金曜、隔週の月曜と火・土の午前に限られており、かつ午前中の診察は一般的な耳鼻咽喉科の患者でかなり混雑して待たされるため、なるべく平日午後の枠で行くのをお勧めします