子育て総力戦研究所

父親から見た23区近郊車なし子育て

行政による出産・子育てに対する支援について

この記事の要旨

 子どもが生後1カ月半になるまでに利用した行政からの支援とその制度的な側面についてまとめています。

行政による子育て支援に係る施策について

 一口に「行政」といっても、日本国政府都道府県・市区町村に分かれており、施策については、政府が企画するもの、都道府県が企画するもの、市区町村独自で行うものがあります。子育て施策については、地域の実情を最も把握している市区町村が実施主体となり、政府・都道府県の施策も含め様々な事業を行っています

 このことから、住んでいる市区町村が行っている施策パッケージは、①政府施策(うち、実施が必須のものと自治体が選択できるものがある)、②都道府県単位で実施している施策(これも必須のものと選択制のものがある)、③市区町村が独自で行っている施策の3つがミックスされてできています。ここでは、中野区の施策を例にとって見ていきます。

出産前後の支援に係るプログラム(低所得層向け・多胎妊娠向けを除く)

 中野区のHPを見ると、ページが多岐に渡っていてとてもややこしいのですが、単なる情報提供を除くと以下のようなラインナップになっています。①は政府施策として全国の市区町村一律で実施しているもの、①②や②は都下全自治で行っているもの、①②③や②③、③は中野区の施策として、独自あるいは国や都のパッケージに乗っかる形で実施しているものになります。

○出産まで
・①「妊婦健康診査・妊産婦歯科健康診査(の費用助成)」
・③「こんにちは赤ちゃん学級」「妊婦さんクラス」「妊婦さんの歯っぴいお食事講座」「マタニティケアクラス」「オンライン両親学級
・③「産前家事支援事業」
・①②③「かんがるー面接」「出産・子育て応援ギフト」

○出産後
・①「出産育児一時金」・「児童手当」
・①「育児休業
・①②「新生児聴覚検査の費用助成」
・①「乳幼児健康診査・予防接種(の全額公費負担)」
・②③「子ども医療費無償化」
・①②③「こんにちは赤ちゃん訪問」「出産・子育て応援ギフト」
・①②③「産後ケア事業(ショートステイデイケアアウトリーチ助産師訪問)」
・②③「産後家事・育児支援
・③「0歳のあかちゃん・集合」「赤ちゃんがきた!BP1・BP2プログラム」「ウエルカム!!はじめてママ」
・②③「ファーストバースデーサポート」
・③「離乳食講習会」「パパ向け離乳食講習会」

プログラムそれぞれの解説・感想

○出産まで
①「妊婦健康診査・妊産婦歯科健康診査(の費用助成)」
 →計14回分の妊婦健診が無償になるイメージですが、対象となる検査範囲が決まっているため、定期健診の回数が収まっていても、1回ごとに追加的に行われる検査項目分の費用は自己負担となるのが意外でした。妊娠届を出した際に母子手帳とともにクーポン代わりの受診票がもらえます。

・③「こんにちは赤ちゃん学級」「妊婦さんクラス」「妊婦さんの歯っぴいお食事講座」「マタニティケアクラス」「オンライン両親学級、これらは中野区が主催するいわゆる両親学級で、定員が少ないこともあってか先着順や抽選で満員となることが多いそうです。
 →「こんにちは赤ちゃん学級」が一番ベーシックな内容で、両親揃っての参加を前提としている節がある(実際大半は揃って参加していた)ので、この中では一番優先すべきかと思います。
 →「妊婦さんクラス」については、プレママが集まって助産師を質問攻めにすることで、同じ境遇にあるプレママ間での共感・理解も進む内容となり、一番知り合いができやすい。他方、集団お悩み相談室みたいな感じなので、あまり資にならない可能性もあります。
 →「妊婦さんの歯っぴいお食事講座」については妊産婦の栄養補給の考え方等について話を聞くものです。
 →「マタニティケアクラス」については、助産院で母乳マッサージ・心身の維持等の実践的指導を受けるものです。母乳に関連する指導を産前に受けられるのはこれだけで、心の準備にはなると思います。

・③「産前家事支援事業」
 →利用していないのでわかりませんが、ハウスキーパーさんを補助付きで格安で利用できるようです。

・①②③「かんがるー面接」+「出産・子育て応援ギフト」
 →国の少子化対策施策「妊婦・子育て家庭への伴走型相談支援と経済的支援の一体的実施」に則って行われている、行政セクターへの相談を産前産後に1回ずつ行うことで出産・子育て応援交付金(ギフト券)がもらえるという施策。
 →産前に行われる「かんがるー面談」では、上記の支援プログラムの紹介も行われていて、実際それで申し込んだため、「妊娠中からの相談を通して切れ目ない支援につなげる」という施策の趣旨がよく実現されているなと感じました。原則妊婦全員を対象とすることにより、支援を必要とするが見過ごされていた(自分からSOSを発せない)世帯をすくい上げるというのも重要な役割なのではないかと思います。
 →なお、国施策では応援ギフトは10万円ですが都の施策で5万円上積みされており、産前相談で5万円・産後相談で10万円もらえます。また、都の施策としてかんがるー面談を受けることで1万円の商品券がもらえました。

○出産後
・①「出産育児一時金」・「児童手当」
 →まだまだ安いという話はありますが、現金はなんぼあっても困らないのでもらえるものはもらっておきましょう。出産費で足が出たら医療費控除の対象となります。なお、出産一時金50万円は通常なら産婦の手を煩わせることなく産院に直接支払されますが、クレジットカード決済可能な産院の場合、この制度を拒否して、出産費全額を一旦自腹で建て替えて、後日50万円を申請した方が、クレカのポイント(1%程度)分お得です。

・①「育児休業
 →私は3カ月取らせてもらっています。この記事を書く際に初めて知ったのですが、育児休業を取れることは法律に規定されているので、雇用されている全労働者の権利なんですね。また、若干の国庫負担を除いて労使が半々ずつ負担する雇用保険から育児休業給付がなされており、この給付水準・保険料率を政府が決定しています。育休給付金は日々働いている労働者や雇用主が払って全国一律でプールされている保険料から拠出されるため、給料のように会社が労働者に直接払っているわけではなく、会社に直接負担が及ぶことはないようです。全国の労働者間での互助制度のようなもので、日頃から労働保険料を納めている人は胸を張って受け取るべきではないでしょうか。

・①②「新生児聴覚検査の費用助成」
 →助成がなくても産院で自動的に行うんじゃないでしょうか(初期発見が治療につながるため)。

・①「乳幼児健康診査・予防接種(の全額公費負担)」
 →予防接種大事!!!子のために絶対受けましょう!!!

・②③「子ども医療費助成(無償化)」
 →今年から23区内は高校生まで原則自己負担なし・所得制限なしとなったようですが、それは23区が追加の助成を出しているからで、多摩の自治体では所得制限がある場合があるそうです。

・①②③「こんにちは赤ちゃん訪問」+「出産・子育て応援ギフト」
 →「出産・子育て応援ギフト」のうち10万円分と紐づいた相談。助産師が各世帯を訪問して、どのような家庭環境・居住条件で育児をしているか確認し、実地に即した相談・指導を行っています。育児の手法・難易度は家の状況によっても大きく異なるので、このような実践的なアドバイスがもらえる機会は貴重で、原則全世帯をまわるのも相まって、育児困難な世帯の発見と支援にかなりの効果を発揮しているのではないかと思います。

・①②③「産後ケア事業(ショートステイデイケアアウトリーチ助産師訪問)」
 →まだ本格利用はしていないですが、積極的に使った方がいいと思います。

・②③「産後家事・育児支援
 →まだ利用していません。

・③「0歳のあかちゃん・集合」「赤ちゃんがきた!BP1・BP2プログラム」「ウエルカム!!はじめてママ」
 →まだ利用していません。

・②③「ファーストバースデーサポート」
 →都独自施策で、1歳or2歳になったときにカタログギフトがもらえます。令和5年度からギフトの金額が1万円から6万円に上がったらしい。

・③「離乳食講習会」「パパ向け離乳食講習会」
 →パパ向け離乳食講習会に参加しましたが、まぁ普段からそこそこの自炊をしている人であればいいかな…という感じです。ABCクッキングみたい。

行政による子育て支援の概観について

 政策メニューとしてはかなり仕上がっているという印象ですが、子育て支援に力を入れるようになったのはここ5年の話なので各自治体や現場の体制整備が追いついておらず、まだ政策目標が実現しきれていないと思いました。
 上記のような行政による支援メニューの中で伝統的な母子保健事業として政府施策が徹底されている①の項目は変わりませんが、②③の項目は自治体により内容が大きく変わります。中野区はうまく運用していましたが、国の少子化対策施策「妊婦・子育て家庭への伴走型相談支援と経済的支援の一体的実施」を現場で実践できている自治体はまだ多くないのではないでしょうか。また、産後ケア事業については、委託先の民間団体の所在にも依存するため、自治体による格差が大きいのではないかと見ています。
 この他に保活という大きな問題が横たわっていますが、それ以前の妊婦・乳児支援の段階でも自治体ごとの差はあるので、どこで出産・育児をするか決める際はこうした点も考慮しておくといいかもしれません。